2026.10.21 23:00 JST / php2shell

昨夜、ネットで何が起きたのか
PHPの重大な欠陥をやさしく解説

Chatworkや楽天市場が止まった理由と、XやYouTubeが普通に使えた理由。専門用語はその場で説明しながら進めます。

対象: ITに詳しくない方・新卒社員 情報の時点: 2026年10月22日(木)午前

昨日驚かれた方が非常に多いのではないかなと思います。皆さんびっくりしたと思います。

このページでは、昨夜何が起きたのかを、専門用語をその場で説明しながら順番にお伝えします。今回の件から見えてきた、AI時代のセキュリティの考え方は11章にまとめています。

まず3行で

  1. 世界のWebサイトの約7割を動かしている「PHP」というプログラミング言語に、外から乗っ取られるおそれのある重大な欠陥が2つ見つかりました。
  2. 修正版が出たのは10月21日(水)23時ごろ。各社は「修正を当てるまでに攻撃されないように」と、念のため先にサービスを止めました。Chatwork・楽天市場・BASEなどが使えなかったのはこのためです。
  3. スマホやパソコンを使うだけの私たちが、端末で何かをする必要はありません。止まった=被害を受けた、でもありません。

01そもそも「PHP」とは何か

Webサービスは、レストランによく似ています。私たちが見ている画面は「客席」、注文を受けて料理を作るのは奥の「厨房」です。

客席 ブラウザ・アプリ (Chrome・Safari など) 私たちが見る側 注文票(リクエスト) 料理(ページ・データ) 厨房 サーバー(ユーザーには見えない) レシピの書き方 =プログラミング言語 PHP/Java/Python など
PHPは「厨房で使われるレシピの書き方」の一つ。客席(私たちの端末)には入っていません。

PHP(ピーエイチピー)は、厨房(サーバー)で使われるプログラミング言語です。「ログインした人の名前を表示する」「注文を記録する」「メッセージを保存する」といった、画面の裏側の処理を担当します。こうした裏側で動く言語をサーバーサイド言語と呼びます。

どれくらい使われているのか

  • 1995年に生まれた歴史の長い言語です。無料で誰でも使え、覚えやすく、安いレンタルサーバーでも動くため、世界中に広まりました。
  • 調査会社W3Techsの2026年10月の集計では、裏側の言語が判別できたWebサイトのうち69.3%がPHPです。
  • ブログやホームページ作成ソフトのWordPress(ワードプレス)、ネットショップ作成ソフトのEC-CUBEもPHPで作られています。会社のホームページの多くがこれで動いています。
つまり「PHPに穴があった」は、世界の厨房の7割で、同じ型の裏口の鍵が壊れていたという状況でした。

02何が起きたのか(時系列)

時刻はすべて日本時間です。

日時出来事
2026年8月セキュリティ企業などが欠陥を見つけ、PHPの開発チームに非公開で報告
10/20 午後本来は伏せておくはずの欠陥の管理番号がネットに出回る(誤った深刻度「10.0」も一緒に拡散)
10/20 夜PHP開発チームが「重大な修正版を出すので準備を」と予告。公開日を22日から21日に1日前倒し
10/21 午後BASE、コドモンなどが先行してメンテナンス入り
10/21 22時前高市総理がXで「大至急のお願い」として対応を呼びかけ
10/21 23時前後Chatwork、楽天市場、ゲーム各社(ウマ娘・グラブルなど)が一斉に緊急メンテナンス入り
10/21 23時ごろ修正版(PHP 8.5.12/8.4.27/8.3.36/8.2.35)が公開
10/22各社が修正を当てて順次再開中

03どんな欠陥だったのか

「脆弱性(ぜいじゃくせい)」とは

ソフトウェアの設計ミスやバグのうち、悪用されると危ないもののことです。「セキュリティ上の穴」と言い換えて構いません。

今回の穴:通称「php2shell」

管理番号CVE-2026-109618 と CVE-2026-109619
CVE=世界共通の「脆弱性の管理番号」。病院のカルテ番号のようなもの
深刻度CVSS 9.2(10点満点。区分は最高の「緊急」)
CVSS=危なさを0〜10点で表す世界共通の物差し。9点以上は「すぐ直すべき」水準
種類RCE(リモートコード実行)
ログインしていない他人が、外からサーバーに好きな命令を実行させられる。脆弱性の中で最も危ない部類

レストランでいえば、「注文票に特殊な書き方をすると、厨房の料理人を外から自由に操れてしまう」状態です。厨房を乗っ取られると、次のような被害につながり得ます。

  • 顧客情報や注文履歴を盗まれる
  • ページを書き換えられ、偽サイトや詐欺ページに変えられる
  • そのサーバーを踏み台にして、別の攻撃に使われる

技術的には、PHP本体のメモリ(作業机)の片付け方の不具合です。使い終わった机に前の作業の書類が残っていて、それを別の注文の処理で読んでしまう、という種類の不具合です。

すべてのサイトが同じように危ないわけではなく、サーバーの組み方で条件が変わります(Apacheと一体で動く「mod_php」が最も危ないとされます)。ただし修正版への更新が唯一の確実な対策です。

04なぜ各社は「先にサービスを止めた」のか

修正版の公開は、攻撃者への「答え」の公開でもある

修正版が出ると、攻撃者は修正前と修正後を見比べて、どこが穴だったかを逆算できます。つまり修正版が出た直後こそ、一番攻撃されやすい時間帯です。

さらに今回は、管理番号が予定より早く出回り、攻撃の試みもすでに観測されていました(セキュリティ会社Cloudflareなどの報告)。

各社の判断

「修正版が出てから、うちのサーバーに当てるまでに数時間かかる。その間に攻撃されたら顧客の情報が漏れるかもしれない。それなら数時間止めるほうが安い。」

これが予防的な緊急メンテナンスです。Chatworkの告知も「PHPの重大な脆弱性への予防的な対策のため」となっています。

止まった=攻撃された、ではありません。被害を出さないために、自分から店のシャッターを下ろした状態です。22日時点で、各社の発表に今回の件による情報流出などの被害は出ていません。

05高市総理の注意喚起

何を言ったか

  • 10月21日 22時前、高市総理が自身のXで「今夜に対応して頂きたい大至急のお願い」として投稿しました。
  • 内容は、自分たちのWebサイトでPHPを使っているかを確認し、修正版を可及的速やかに当てる準備をしてほしいというものです。
  • さらに、すぐに修正を当てられない場合はWebサイトなどを一時的に止めることも、リスクを下げる有効策の一つだと述べました。
  • 政府のサイバーセキュリティの司令塔である国家サイバー統括室も、同じ内容をXで呼びかけています。

なぜ「異例」なのか

総理大臣が特定のソフトウェアの欠陥について、SNSで直接対応を呼びかけるのは前例がほとんどありません。エンジニアの間では、おおむね好意的に受け止められています。

これまでの現場

エンジニアが「止めたい」と言っても、売上に響くため経営者がなかなか首を縦に振らないことがあった。

昨夜

総理が「止めるのも有効策」と言ったことで、経営層が停止を決断しやすくなった。一斉停止の後押しになったと考えられる。

06物販・ネットショップをしている方への影響

物販をしている方にとっては、「売る場所」と「連絡する手段」が同時に止まった夜でした。

サービス物販での役割状況
Chatwork社内・外注・仕入れ先との連絡停止 21日23時から緊急メンテ。予防的な停止。終了時刻は「未定」と告知
楽天市場販売の場停止 21日夜から緊急メンテ。報道ではトップページやお気に入りページなどが対象
楽天RMS
出店者用の管理画面
受注確認・発送処理公式未確認 出店者から「管理システムがメンテで発送できない」という声あり。停止時間を示す楽天の公式告知は見つけられませんでした
楽天ポイントモール集客停止 21〜22日に緊急メンテ(延長の可能性ありと告知)
BASEネットショップ作成停止 21日午後から先行してメンテ
メルカリ個人間販売可能性 予防措置として臨時メンテを行う「可能性がある」と告知
レンタルサーバー各社
エックスサーバー・さくら・ConoHa WING など
自社ECサイト・WordPressの置き場所一部停止 管理画面などを予防的に停止。サイトの表示とメールは通常どおりという会社も

実務で起きたこと(起き得たこと)

  • 受注の確認・発送通知ができない。発送が遅れ、問い合わせやレビューに響くおそれ
  • 外注さん・倉庫・仕入れ先とChatworkで連絡がつかない
  • 楽天の商品ページが見られず、その時間帯の売上機会を逃す
  • 自社サイトのレンタルサーバー管理画面に入れない

今回から学べる備え

  • 連絡手段を1本に頼らない。外注さん・倉庫との予備の連絡手段(LINE・メール・電話)を決めておく
  • 発送遅延の定型文を用意しておく。「システム障害により発送が1日遅れます」をすぐ出せるように
  • 自社サイトがある人は、サーバー会社のお知らせを確認する

07ではなぜ、XやYouTubeは普通に使えたのか

一言でいうと、厨房で使っているレシピの書き方(言語)が違うからです。

細工した注文票 PHPの穴だけを狙う攻撃 Chatwork PHP + Scala 穴がある → 予防停止 X(旧Twitter) Scala + Java 鍵の型が違う → 通常運転 YouTube C++・Java・Go など 鍵の型が違う → 通常運転
今回の穴は「PHPそのもの」の穴。PHPを使っていない厨房には、そもそも壊れた裏口がない。
サービス裏側の主な言語(公開情報より)今回
ChatworkPHPとScala(スカラ)の2本立て。サービス開始当初からのPHPが、今も多くの基幹機能を支えていると、運営会社kubellの求人票に記載予防停止
X創業期はRuby(ルビー)で作られ、2010年前後にScala・Java(ジャバ)へ作り替え済み通常運転
YouTubeGoogle社の独自システム。一般にC++・Java・Go・Pythonなどで作られていると言われる(今回の件でのGoogleの公式声明は未確認)通常運転

「言語の違い」以外の差もある

正確には、次の4つの組み合わせで影響が決まります。

  1. PHPを使っているか。使っていなければ関係ありません。
  2. 使っているなら、外から注文を受け付ける部分で使っているか。社内の裏方だけなら危険は小さくなります。
  3. 外側に「門番」がいるか。WAF(ワフ)という、怪しい注文票をはじく仕組みです。Cloudflareは21日未明に今回の攻撃をはじくルールを稼働させました。ただし門番は時間稼ぎで、根本の対策は修正版への更新です。
  4. 会社の慎重さ。影響が小さそうでも念のため止めた会社もあれば、門番で十分と判断して動かし続けた会社もあります。

豆知識:Facebookは?

Facebook(Meta社)は、もともとPHPで作られた有名な例です。ただし今は、PHPを改良した独自言語「Hack(ハック)」と、独自の実行エンジン「HHVM」で動いています。今回の穴はPHPの標準エンジンの不具合なので、別エンジンなら影響を受けない可能性があります。ただし今回の件でMeta社の公式声明は確認できておらず、未確認です。

覚えておきたいこと:同じ事件でも、そのサービスが裏で何を使っているかで影響はまったく変わります。自社で使っているツール(チャット、ネットショップ、会計ソフト、ホームページ)がどんな仕組みの上に乗っているかを知っておくと、こういう夜に「どれが止まりそうか」を先に読めるようになります。

08よくある誤解・デマ

出回った情報実際
「23時にインターネット全体が遮断される」誤り 23時は修正版の公開予定時刻と各社のメンテ開始時刻。ルーターの電源を切ったり、スマホを機内モードにしたりする必要はありません
「スマホやパソコンでPHPを更新しないといけない」誤り PHPはサーバー(厨房)で動くもので、私たちの端末には入っていません
「深刻度は満点の10.0」誤り 正しくは9.2(それでも「緊急」区分)
「WordPressを最新にすれば大丈夫」誤り 直すべきはWordPressではなく、その下で動くPHP本体です
「設定を変えれば防げる」誤り 一部の経路を止めるだけ。完全な対策は修正版への更新のみ
「サービスが止まった=ハッキングされた」必ずしも違う 大半は予防的な停止です

便乗詐欺に注意

こうした騒ぎの後には、便乗詐欺が出ます。「PHP脆弱性対策アプリをインストールしてください」「アカウントが危険です。こちらからパスワードを変更してください」といったメール・SMSのリンクは開かないでください。確認は必ず各サービスの公式サイト・公式アプリから行います。

09立場別:今やること

一般の利用者・社員

  • 端末で何かをする必要はありません
  • 止まっているサービスは、公式のお知らせで再開を待つ
  • 公式から「パスワードを変更してください」と案内が来たら従う。同じパスワードを使い回している他のサービスも変える
  • 怪しいメール・SMSのリンクは開かない

自社のホームページ・ネットショップを持っている人

  • レンタルサーバー会社のお知らせを確認する
  • 自分でサーバーを管理している場合は、PHPを 8.5.12/8.4.27/8.3.36/8.2.35 のいずれかに更新する
  • PHP 8.1以前の古い版には公式の修正版が出ません。サーバー会社か制作会社にすぐ相談する
  • 制作会社には「PHPの脆弱性(php2shell)の対応は済んでいますか」と聞けば通じます

11今回の件から学べること

AIが広まった今、セキュリティの世界で言われていることが、昨夜ほぼそのままの形で起きました。ご自分のお店に置き換えながら読んでみてください。

セキュリティの考え方昨夜、実際に起きたこと
穴をゼロにできる会社はない
大きすぎて1人の頭に入りきらない
世界中で30年使われ、たくさんの目で見られてきたPHPでさえ、2004年に見つかった問題が形を変えて残っていました
守る側は圧倒的に不利
90分間1点も取られてはいけない試合を毎日やっている
攻める側は穴を1つ見つければいい。守る側は、世界のWebサイトの約7割が一晩で一斉に修正に追われました
人間に見えなかった窓が、AIには見える 今回の穴は、AIを使った調査で見つかりました(下のコラム)
攻撃までの時間が短くなっている
数時間で攻撃される例もある
だからこそ各社は、修正版の公開を待たずに先にサービスを止めました(4章)
破られる前提で、守りを3段に分ける
入られにくく/被害を小さく/すぐ気づいて動く
予防的な緊急メンテナンスは「被害を小さく」の実例です。数時間の売上より、お客様の情報と信用を守る判断をしました
急かされたら止まる
見抜くのではなく、確かめる道を決めておく
騒ぎに便乗した「対策アプリを入れて」「パスワードを変更して」というメールに注意。確認は公式サイト・公式アプリから(8章)
1つに頼らない
ツール・販路・口座・データ、1か所が倒れても困らない形に
Chatworkと楽天が同じ夜に止まりました。連絡手段と販路を1本に頼っていると、その夜は何もできなくなります(6章)
コラム

この穴は「AIを使った調査」で見つかった

報道によると、穴を見つけた一社は、OpenAIが6月に始めた取り組み(Patch the Planet)に参加していたセキュリティ企業Califです。この取り組みは、オープンソースのソフトウェアの穴を探すものです。担当者が過去の攻撃の歴史を覚えていて、「昔の穴が形を変えて残っているのでは」という問いをAIに投げ続けた結果、数日で攻撃の経路にたどり着いたとされています。

ここ最近、長年見つからなかった古い穴をAIが見つける例が続いています。今回もまさに同じ構図で、AIが勝手に見つけたのではなく、「人の経験からくる問い」と「AIの調べる力」の組み合わせで見つかった点が印象的です。

一方で、同じことは攻撃する側もできます。穴が見つかってから悪用されるまでの時間は、これからもっと短くなると考えておいたほうがよさそうです。

今日からできる3つ:①Amazon・Gmail・銀行のパスワードを使い回していないか確かめる ②2段階認証の届く先が今の電話番号か確かめる ③外注さん・倉庫との予備の連絡手段を決めておく。1つだけでも、今日のうちに済ませておきましょう。

12用語集

PHPピーエイチピー
Webサイトの裏側(サーバー)で動くプログラミング言語。世界のサイトの約7割が使用
サーバー
サービスの裏側で処理をするコンピューター。レストランの厨房
ブラウザ
ChromeやSafariなど、Webページを見るためのソフト。レストランの客席
プログラミング言語
コンピューターへの作業指示の書き方。PHP、Java、Pythonなど多数ある
脆弱性ぜいじゃくせい
悪用されると危ない、ソフトウェアの欠陥。セキュリティの穴
パッチ/修正版
穴をふさぐための更新プログラム
RCEアールシーイー
リモートコード実行。外から好きな命令を実行される、最も危ない種類の穴
CVEシーブイイー
脆弱性につける世界共通の管理番号
CVSSシーブイエスエス
脆弱性の危なさを0〜10点で表す物差し
WAFワフ
怪しいアクセスをはじく「門番」。時間稼ぎにはなるが根本対策ではない
緊急メンテナンス
予定外にサービスを止めて作業すること。今回は予防目的
WordPressワードプレス
PHPで作られたホームページ作成ソフト
国家サイバー統括室
政府のサイバーセキュリティの司令塔

確認できなかったこと

  • 楽天RMSの停止時間と再開時刻(楽天の公式告知を見つけられず)
  • Chatworkのメンテナンス終了時刻
  • YouTube・Meta社の、今回の件に関する公式声明

出典(2026年10月22日に確認)